コールマンを創る人々 第29回 マーケティング本部 プロモーショングループ グループマネージャー 野沢邦佳 2016/12/26

野沢邦佳さん

モノ創りで人々の暮らしを支えたい…その想いが野沢さんを支えてきた

豊かな自然で育った青森での少年時代

 コールマンが日本に新たなキャンプの楽しみ方を紹介したのは1970年代半ば。この素晴らしい遊びに私が足を踏み入れたのも同じ頃だった。見たこともないような大きなテントに真昼のような明るさのランタン、美味しい料理を何でも作ってくれるツーバーナー。そんな品々が日本のアウトドアファンを驚かせた。
 しかし、それらと同じくらい…いや、それ以上にキャンプ観を一変させたのがチェアやテーブル、ベッドなどのファニチャー類だった。子どもの頃、夏休みのキャンプ教室で経験したのは、ゴツゴツした小さな丸太に腰を下ろして眺める焚火。テントの中では寝袋に入って薄いマットの上に転がったし、カレーライスは、地べたにしゃがんで食べた。それはそれで未知の世界だったけれど、コールマンが教えてくれたのはまったく違う感動だった。
 タープの下にはテーブルとチェアがもたらすダイニングのような空間…ゆったりと腰を下ろし、食器を置いたままでさまざまな料理を心ゆくまで楽しめ、心地よい生地の張りとフレームのしなりのベッドでは地面の凹凸を気にせず熟睡できた。今では当たり前の快適なキャンプを教えてくれたのは、ファニチャーの数々だったのである。
 さて、前置きがずいぶん長くなってしまったけれど、今回お会いしたのは、そんな逸品を送り出してきた野沢邦佳さん。長年、プロダクトマネージャーとして、ファニチャーやテントなどモノ創りの最前線で活躍してきたが、その経験を活かして現在はプロモーション活動に取り組んでいる。
 出身は青森県。海と山が接近した自然豊かな土地で育った。
「クルマで5分走れば海に出たし、10分走れば山の登山口に着きましたので、父と一緒に山菜採りとかキノコ狩りを楽しんでいました。近くの渓流ではイワナ、ヤマメは簡単に釣れましたから連れて行ってもらったりとか…。ですから、父との思い出も遊園地とかではなく、そんなことばかりです」
 自然の恵みに触れながら育った少年時代。さまざまなスポーツにも親しんだ。
「青森というと雪のイメージがあるでしょうが、そんなに降らないんです。ですから、スキーは高校3年くらいまでやったことがなかったんですよ。地域的にはスケートですね。田んぼに水を張った田んぼリンクで、小学生からスケートを楽しむんです。アイスホッケーとかスピードスケートが人気で、地域からはオリンピック選手も出ています」
 やがて、熱中するようになったのが少年野球。そこで、後の彼の人生を示唆するような出来事が起こる。
「キャッチャーをやることになったんです。ホントは外野手をやりたかったけど、それまでのキャッチャーがケガをして誰かが穴埋めをしなければならなくなって、“お前やれ!”と。僕の人生って、突然、責任ある仕事が降ってくるとか、頼まれるとイヤといえなくって結局任されちゃうことが多いんです(笑)。中学では、キャプテンをやれ!って(笑)。いつも周りを固められて逃げられなくなっちゃうんですよ」
 中学でも、同じような流れで生徒会を引き受けることになった。しかし、高校では一転、ラグビーに進む。
「進学した八戸市の高校でラグビーを選びました。入ったのがたまたまラグビーの強豪校だったんです。15人全員に役割があって、個々の意識と力の集合で戦っていくというのがいいなぁ…と。身体を張ってチームに貢献できる…っていうのにも惹かれました」
 野沢さんの高校は、東日本の選抜大会に東北代表として出場し、彼自身も青森県の代表メンバーにも選ばれ、国体に出場したという。そして、大学では理工系の学部に進学。そこで、現在の基礎が形作られていった。

高校で選んだ道はラグビーだった。

高校で選んだ道はラグビーだった。真ん中の7番が野沢さんで県代表にも選出された

モノ創りで人々の暮らしを支えたい…

 「理工学部を選んだのは、物を作りたかったからです。男ってクルマとかオーディオとか時計とか好きじゃないですか。だから、それを作るほうになりたいなぁ…と。開発して、設計して…世の中に生み出したいと。なぜスピーカーから音が出るのか…とか、そういう仕組みにすごく興味がありました。取り組んだのは人間工学です。人間と機械の間をつなぐシステムを考える学問ですね。僕は振動と騒音の影響について研究しました。具体的にはクルマの乗り心地に対する振動と騒音の影響を調べたんです。どうしたらもっと快適に使えるか…。シートの座面の角度はどれくらいが快適なのか…も」
 そこには、目まぐるしく発展する世の中の工業製品に対する野沢さんなりの疑問があったという。
「今の世の中にはありとあらゆる物が揃って高度に発達していますが、本当に役に立っているんだろうか…人を幸福にしているんだろうか…単に性能や価格、スペックだけではない、本当に暮らしを支えるモノ創りはできないものだろうか…と感じてしまったんです。まぁ、アナログ的なんですけどね(笑)。そういうことを、設計とか開発といった立場から支えられないかと…」
 そして、就職したのはベビー用品のメーカーだった。与えられた仕事はベビーカーの開発設計で、9年間、乳児を支えるモノ創りに奔走した。
「タイヤやクッションなどの足回り、日よけなどから始めました。サスペンションはどれくらいの堅さがいいのか…振動の影響とかね。赤ちゃんの体圧をどう分散させれば快適か…とか、角度はどうかとか…まさに人間工学の世界です」
 しかし相手は物言わぬ赤ちゃん。大人と違って感想を事細かに尋ねることはできない。ひたすら表情を眺めたり、いろいろなセンサーを駆使し、模索する日々を送った。この時の経験が後のファニチャー作りに大きく役立っているのは言うまでもない。
 そして、野沢さんは、コールマン ジャパンと運命的な出会いを果たすことになる。
「モノ創りの上流からすべてをひとりでやってみたいと思うようになっていったんですが、たまたまコールマンがそういう仕事で募集していました。企画や商品の裁量権を与えられ、責任を持って取り組ませてくれる…というところに惹かれたんです。なんでもひとりでやることになるから大変だよ…って言われたんですけど、僕にとってはむしろ好都合でした」

人生の楽しみ、喜びを生み出す仕事

 人の一生で、もっとも繊細で無防備な乳児時代を支えるモノ創りに携わった野沢さんにとって、コールマンはその経験を思う存分活かすことのできる最高の舞台だった。
「ファニチャーのプロダクトマネージャーとして採用されたんですが、入社が決まって、お店を見に行ってみたんです。で、思ったのは、それまではベビー用品という生活の一部を支える仕事でしたが、コールマンでは、レジャーやアウトドアで楽しむ…という、誰かの人生の楽しみを生み出す仕事ができるっていう、それがすごいなぁと。自分は商品開発という仕事を通して、お客様に便利とか快適性だけではなく、楽しみ方や遊び方を発見するお手伝いをできたらと思いました」
 そして、コールマンでのモノ創りは、野沢さんにとってユーザーとのダイレクトなコミュニケーションという新たな経験をもたらした。

商品開発チームで行ったスノーシュー&キャンプ。

商品開発チームで行ったスノーシュー&キャンプ。ユーザーの立場でモノ創りを捉え、開発に活かしている

「それまでは、消費者と直接コミュニケーションをとることは多くはなかったんですが、コールマンではイベントなどでバンバン来てくれるんですよ。お客様からの反応があまりにもダイレクトで、驚きました(笑)。でも、コールマンのファンはみんな温かくて……やさしく迎え入れてくれたんです。そのうち、企画を進めているうちに“これはあの人が喜んでくれそうだな…”なんて浮かぶようになってしまいました」
 こうして野沢さんは数々のヒットを送り出していくが、その中でも特に記憶に残る品があるという。
「コンパクトフォールディングチェアです。コールマン初のローチェアだったと思います。社内でもお客様も、座った瞬間の第一声が“これいいね”でした。“高さの違いが生み出す寛ぎや、それまでと違う感覚が絶対あるはずだ…”というアイデアがあって、伏線はありました。キャンプ場で実際にどんな遊び方をしているか…を調べたり、ほかの製品で、高さや角度を変えたらどうだろうなぁ…とか、ひじ掛けを少し調整してみようかな…とかやってみたりしていたんですが、実際に座って驚き、感激してもらえたっていうのを、自分自身で実感できたのがうれしかったです。まぁ、そんなわけでベビーカーに始まって、広げたり畳んだりを考える仕事を15年以上続けてきたわけです(笑)」
 その後、テントの開発を担当。

コンパクトフォールディングチェア

野沢さんのお気に入りは、自身が開発したコールマン初のローチェア「コンパクトフォールディングチェア」

「テントもモノ創りの根本は同じですが、ファニチャーではお客様は自分で判断できる部分が多いのに対し、テントって、買う段階では判断できない部分があるんです。ですから、テントの開発において大切なのは気遣いだな…と。我々の意図した部分の多くは気づかれなくてもストレスなく安心して楽しんでもらえるべきと思いました。でも逆に言えば、それが理解していただけたときの感動って大きいとも…。そういったことを含めて、思い出深い商品は、ウエザーマスターシリーズのノトスですかね。真のオールウエザータイプを作りたい…と思ってそれを実現できた商品です」
 そして昨年8月、プロモーションを担当する部署に異動。新たな世界に身を投じることとなった。
「驚きました。モノ創りしか経験がありませんでしたから。自分が作ったものを売って来い!というメッセージなのかなと思いました。プロモーショングループでは、小売店様にお配りする販促物やリーフレット…たとえばマスターシリーズのブックを作ったりという販売のプロモーションの部分と、コールマン・スタッフが常駐しているコールマンアドバイザーショップや、コールマンのコーナーを設けてくださっているお店のレイアウトデザインや施工などを手掛けています。また、キャンプカレッジなどビギナー向けイベントや、アウトドアリゾートパークといったブランドを代表するイベントも僕のチームの担当です。
 それまでの販促活動もそれなりに見ていましたが、異動後お店にどんどん通うようになって、売り場というものをもっと大切にしたい…販促物の表現も変えられるんじゃないか…と感じました。現在の社会って、ブランドが発するメッセージが消費者に響きにくくなっているような気がします。どうしたら消費者が自分のコトとして受け取ってくれるようになるかな…と。店頭でそれをきちんと捉えてもらえるようにしたい。そのためにどんどん仕掛けをしていきたいです」
 現在の野沢さんが抱く夢はユーザーとのコミュニケーションの多角化と深化。それがコールマンブランドへの理解や支持につながると信じているからだ。
「イベントなどを通じて、直接的なコミュニケーションをとっていくのも大切なことですが、それは限界があります。だから、販促物や売場の表現を通した間接的なコミュニケーションをもっと大事にしたい…と思っているんです。そして、コールマンっていいなと感じていただけたら嬉しいですよね」
 モノ創りのプロだからこそ伝えられることがある。彼の言葉にはそんな想いが満ちていました。…だとしたら、お店やイベントはこれからもっともっと楽しくなるはず……なんて言ったらプレッシャーかもしれませんが、「また周りを固められちゃったなぁ…」なんて笑いながら、ファンがびっくりするような企画を披露してくれるような気がします。乞うご期待!ですね。

イベントでお客さんにテントの撤収方法を説明する野沢さん

イベントでお客さんにテントの撤収方法を説明する野沢さん。お客様とのダイレクトなコミュニケーションを大切にしている