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キャンプは子どもを元気にする (1/3)

子どもの頃、「外に行って遊んできなさい」と親に促された思い出はありませんか?
日が暮れるまで思いっきり遊んで、家に帰ったら夕ご飯を食べて、ぐっすりと眠る…。
そんな当たり前のひとときが子どもの心と体に大切だと科学的に検証したのが、
日本体育大学の野井真吾教授です。
そこで、世田谷区の静かなキャンパスを訪ね、外遊びの効果についてお聞きしました。

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  アウトドアで過ごすひとときが、子ども達の成長や情操教育に効果があるという話はよく耳にします。栃木県芳賀郡のツインリンクもてぎ内にある自然体験施設、ハローウッズのプロデューサー、崎野隆一郎さんも子どもたちを受け入れながらそれを実感していました。同施設では、夏休み子ども向けイベントとして、30泊31日のキャンプ企画を運営しています。崎野さんにとって、野外生活の中で子どもたちが目に見えて変わっていくのが何よりの喜びでした。
  子どもたちが、健康に、活発になっていく…崎野さんはそう思いながらも、客観的に検証できないことを歯がゆかったといいます。そこで声をかけたのが日本体育大学の野井真吾教授で、長年、子ども達の心や体を研究するスペシャリストでした。野井先生はその出会いをこう語ります。
「サンダルに短パン…崎野さんはそんな格好で訪ねてきたんです。ビックリしました。でも話を始めたらすぐに意気投合して…。彼は現場の実感として、野外生活が子どもたちを元気にすると確信していました。“あなたは子どもの体と心のことを調べているようだから、その『元気』を証明してほしい”というんです。これだ!と私も思ったんですね」。
  それまでも、各地の幼稚園など教育施設で研究を進めていた野井先生ですが、これを機にハローウッズとのコラボレーションが始まります。そこには、子どもたちに対する長年の想いがありました。
「僕は以前、中学校と高校の教師をしていました。当時から最近の子どもは元気がないとか、体力がないとか…そんな話をよく耳にしていたんですが、実際に測定をすると体力がある子も少なくないんです。でも、ようすを見ていると確かに元気がないようなんです。彼らと話せば、自分の意思でぐったりしてるわけではないんですね。積極的に活動したい、健康になりたいという意志も強いんです。なのに、なぜか元気がない。これは彼ら以外になにか原因があるのではないか…そう思うようになっていたんです」

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  心と体…これを、野井先生は脳と自律神経の問題と捉えました。このふたつに注目して、子どもたちの心と体の現状を把握しようと考えたわけです。
「崎野さんの話をじっくり聞いてみると、体のリズムが関係しているような気がしてきたんですね。さらに“子どもたちは最初のうち見向きもしなかったことにだんだん目を輝かせるようになる”と聞いて、これは認知機能とも関わってるな…と。そして、自律神経も気になりました。
こういった背景にあるものが見えてくると、何を測定して調査すればいいかが分かってきます。さて、心はどこにあるかと言えば脳ですよね。大脳の前頭葉と呼ばれる部分で、その働きの一つが認知機能と呼ばれているものです。一方で体のリズムや調子は自律神経の問題で、血圧や体温に影響し、悪いと体調が崩れます」。
  近年、小学校などで学級や授業の崩壊という話を耳にするようになりました。授業中に、騒いだり走り回る子どもが増え、正常な学校活動が困難になるという問題ですが、先生は、この問題も脳の働きから捉えています。
「私たちは何かに集中しなければならない時、脳が興奮します。そして、興奮の抑制も起こるんですが、前頭葉が未発達だとそれができない。結果として集中力を持続させることができなくなります。だから、いつもソワソワ、キョロキョロしていて落ち着きがないんです。私たちはそれをそわそわ型と呼んでいます。過去の調査を見ると、1969年には、そわそわ型は年齢と共に減っていったんですね。小学校に入る頃には全体の2割くらいになってたんです。でも、1990年代になるとそれが増えてきて学級崩壊が騒がれるようになりました。さらに10年経つと男子の7割はそわそわ型になってしまいます。つまり、今の日本は前頭葉が成長しにくい状況なのかもしれない…と思うようになりました。こういう話になると“小学校に入ってからでは遅い!早期教育を!”とか、“しつけがなってない!もっと道徳教育を!”という話になります。でも、本当にそうなんでしょうか」
  そんな疑問を解き明かすヒントを、野井先生は栃木県のある幼稚園で目にすることになります。
「そこでは、朝登園してくると“じゃれつき遊び”っていうのを全員でやるんですね。とにかく外に行って20~30分好き勝手に遊ぶ。何をやってもいいんです。むしろ興奮をあおるようなことをガンガンやらせてる。ルールはありません。ある意味で道徳教育の反対をやってるんですよ。一緒にやるとこっちがクタクタになるくらいみんな大騒ぎです。でも、ここではそわそわ型の子どもが少ないんです。おそらく、朝いちばんで前頭葉を含めた脳に刺激がどんどん行くからだと思います。それによって脳の発達が促されるのではないでしょうか。こういったことから、私は“人間は本来、物事に集中できないような未発達な脳を持って生まれてくるのではないか…それが脳への刺激によって徐々に集中も抑制もできるようになっていくのではないか”と考えるようになりました。脳を育てるために大切なのはワクワクドキドキ感で、熱中できるような体験が必要なんです。早期教育や厳しすぎる道徳教育ではありません」。
  ハローウッズのキャンプでも、当初そわそわ型だった子どもが後半には改善していくのが確認されています。
「キャンプの前半では6割の子どもがそわそわ型なんですが、後半では2割になっているんですよ。でも、このキャンプでじゃれつき遊びのようなことはやっておらず、決まったカリキュラムにみんなで取り組んでいきます。つまり、じゃれつき遊びでなくてもいいんです。ワクワクドキドキ感を味わうことができ、脳に刺激を与えられれば、キャンプのような活動でも効果があるということです」。