小松要一

昭島アウトドアヴィレッジ店 店長

小松要一
小松要一さん。明るい語り口と人懐っこい笑顔が印象的なリーダーだ。ちなみに背後の赤い機械で、サンドブラスト(ガラス容器への文字や模様入れサービス)を施すという

このシリーズで、小売部門の方が登場したのはただ一人。第9回の石角直樹さんだ。それはコールマンジャパンの長い歴史の中で、小売業務が比較的新しい存在であることと無縁ではない。しかし、直営店の増加と功績によって、現在では大きな柱のひとつとなっている。

今回はそんな直営店のひとつ昭島アウトドアヴィレッジの店長、小松要一さんを訪ねてみた。彼は前出の石角さんの後輩…教え子と言ってもいい存在だ。昨年3月、旗艦店として華々しいデビューを飾った同店の牽引役として、忙しい毎日を送っている。

父親との渓流釣りがアウトドアの原点

静岡県裾野市出身の小松さんは1981年生まれ。海にも山にも恵まれた自然豊かな環境で少年時代を過ごしたという。

「父が自営業でしたので、子どもの頃、休日にどこかへ連れて行ってもらった記憶はないんです。だから、友達と山に行ったり崖を昇ったり、秘密基地作ったり、そんな毎日でした。ムカデを触って、刺されて腫れあがって。これ触っちゃダメなんだ…って。学校から帰る道すがらいろんな誘惑があるんですよ。今日はあの山でカブトムシ採っていこうか…とか、遠回りして魚釣って帰ろうか…とか」

しかし、彼にとって父親はアウトドアレジャーの先輩でもあった。

「父は釣りが大好きだったんです。春先の渓流から始まり、冬にはグレ(メジナ)を追って磯に行って…。自分が釣りに没頭したいので、子どもは連れて行ってくれないんですよ。でも、中学校2年のときに何を思ったか“釣りやってみるか?”って言い出したんです。僕も池で友達とコイやフナを釣ったりしてたんですが、親父が休みの日に釣りに行くのを見て、“親父の釣り”にも興味がありました。で、伊豆の天城山の渓流に一緒に行ったんです。テンカラ(和式毛ばり)でした。普段どこにも連れて行ってくれなかった親父との釣り…それがレジャーとしての僕のアウトドアの原点です」

こうして、釣りの楽しさにハマっていった小松少年だが、その想いは募るばかりだった。

「ただただ釣りが好きでした。自分で仕掛けを考えて、どうやったら釣れるのか…いろんなことを思いめぐらせて、その中でうまくいったり、いかなかったり…大ものが釣れることもあれば全然だめなこともあるわけです。釣るまでの過程も楽しみたいんですよ。環境も味わいたい。海であれば“今日は景色がいいなぁ”とか、山であれば“マイナスイオンすごいなぁ”とかね。釣り以外は特にこれといった趣味はなかったですね。でも、空手と柔道は有段者なんです。ジャッキー・チェンが人気の時代でしたから。小学校の卒業文集には“将来、カンフー映画の主役になりたい!”って(笑)」

小松さんが勤務する昭島アウトドアビレッジ店。敷地は明るくゆとりあるレイアウトだ
小松さんが勤務する昭島アウトドアビレッジ店。敷地は明るくゆとりあるレイアウトだ

目の当たりにした直営店の誕生

彼の人生には両親の教えが強く反映している。それは自立自尊の精神だ。

「高校に進むとき、“学費だけは出してやるから、ほかに必要なものは自分でバイトしなさい”と言われました。親は苦労人だったので、僕にも“苦労は買ってでもしろ”というような感じだったんです。だから高校時代はほぼアルバイトに明け暮れていましたね。最初は御殿場高原ビールの厨房、高二になってハンバーガーショップでハンバーガーを作りました。卒業後は居酒屋で稼いだお金で運転免許をとったり…」

その後、柔道整復師の道を志すが断念。新たな道を探る中、コールマンに出会う。

「求人誌にコールマンがあったんです。御殿場での販売業務でした。高校時代、BBQ好きな友人もいたりして、ブランドとしては知っていたし、これ楽しそうだな…と。そうしたら、面接に出てきたのがスキンヘッドの石角さん (笑)」

こうして彼は御殿場プレミアムアウトレットショップの開設スタッフに加わったのだった。あの石角さんのもとで、直営店のノウハウを身につけていったのである。

「まだ店内に商品はなく、ようやく内装が完成していた状況でした。初日は、ただただ“段ボールを崩せ…”と言われて、商品が入ってきた箱をカッターで切って台車に積み上げていました。ひたすら段ボールとの格闘です。ものすごい量でした」

しかし、十代で経験した“苦労”がここで大きな武器になった。まさに両親の厳しさが身を結んだのだ。

「若い頃、さまざまなアルバイトの経験があったので、お客様とどうやって話せばいいのか…なんて壁はなかったですね。居酒屋ではお酒を呑むと気持ちが大きくなって横柄な態度になるお客様もいらっしゃいましたが、そんな時の対応も身につきましたから(笑)。そういったことを十代で得られたのは、今になって思えば大きいことでした。ただ、入ってみて、コールマン製品が思ったよりもたくさんあることにびっくりしました。毎日、カタログをなめるように見て…同じ商品でも仕様が一部変わっていることもありますし。用途は同じふたつの商品があって、どこが違うんだ?とか。覚えておかなければならない細かい商品知識が実に多かったです」

その言葉を聞いて、以前、インタビューで石角さんが口にした“カタログはお客様のためのもの。スタッフはすべて頭に入っていて当たり前”という言葉が頭をよぎる。

昭島店では修理の持ち込みも受け付けているが、スタッフが対面して説明しながら作業を進める
昭島店では修理の持ち込みも受け付けているが、スタッフが対面して説明しながら作業を進める

やがて迎えた御殿場アウトレット店のオープン。小松さんには初めてのことばかりだったという。

「オープンの感動というよりは、“さぁこれからどうしよう?”って感じでした。初日は天候が悪かったのであまり混まなかったんですが、その週末たくさんのお客様が来てくださったんです。でも、全体がうまくかみ合わなかったんですよ。お店って、全体がひとつのチームになって機能しなければなりません。そのためには、各スタッフがショップにおけるすべての仕事を把握することが前提で、ひとつひとつの仕事に優先順位があるんです。さらに店内の状況によって優先事項は刻々と変わっていきます。(倉庫から店頭への)品出し、接客、レジ…今、どこを強化しなければならないか、どこがサポートを求めているか…。

たとえば、売場で説明を求めているお客様がたくさんいるのに、レジに必要以上のスタッフがいても意味がないわけです。でも、そのちょっと後にはレジがてんてこ舞いになっているかもしれない。その時点で、お客様の目線で店内を把握して、何を優先しなければならないか…どこへのフォローが必要か…を、各々が判断できなければいけません。しかし、私も含めて経験の少ないスタッフが多かったので、柔軟に動けなかったんですね。優先順位が分からないので、“それ今やらなくてもいいでしょ?”っていうことを続けてしまったりするんです。でも、みんなすごい勢いで経験値を高めたので、翌週には急速に改善していきました。だから、やったことに対して結果がついていく喜びを日々感じていました」

当時、小松さんの情熱をかきたてたもうひとつの要因は、コールマンの社風だったという。

「直営店が歩み出したばかりだったこともあって、“こうあるべきだ”みたいなことがあまり固まっていませんでした。もちろん、本社トップダウンの指示もありますし、“アウトレットとしてこれはやってね”というのもありましたが、その分余白が多くて、いろんなことに挑戦できる楽しみがあったんですよ。

ちょっとアイデアが浮かぶとしますよね。一応、バイトの身分なんで店長におそるおそる“こんなことやってみていいですか?”って聞くわけです。すると、“ああ、いいよ”って、すぐにOKが出る。“あ、やっていいんだ…”って(笑)。当然、やったことに対してのお客さんの反応が気になるじゃないですか。そして手応えがあった時の嬉しさ、楽しみ。それを見出しちゃったんですね。コールマンってなんでもできる会社だ!って」

受け継がれていく伝統と日々の革新

やがて、小松さんが店長として指揮を執ることになる。

「自分が店長になってみて感じたことがあるんです。あの御殿場オープンの時、先代の石角さんはよく我慢したな…って。百戦錬磨のベテランからすれば、あんな僕らの姿を見て言いたかったことがたくさんあったと思うんですよね。それを我慢して、敢えて任せてくれたような気がするんです。それが僕にはハマったんですね。あの記憶は今も強烈に残っていますし、だから今の自分があるような気もします。でも、その立場になってみて、なかなかできないですよ(笑)」

彼はときどき石角さんを“先代”と呼ぶ。それは、前任者への敬意であると同時に、自分がその継承者であることの自覚にも思える。ここでもコールマンスタイルは着実に受け継がれていたのである。以前、経済新聞の取材で訪ねた経済評論家が、老舗企業の根幹は伝統と革新だと語っていたが、まさにその言葉どおりの世界がここにあった。

「怒られちゃうかもしれませんが、僕の場合、コールマンというブランドに強烈な想いがあって入ったわけではないし、自然の中で育ったので、いろんなギアを持って野外で寝るっていうことにも理解がなかったんです。でも、石角さんにキャンプに連れて行ってもらって、コールマン好きな方々の凄いサイト…これ“家”じゃん!みたいなのを見せていただいて、考えが変わっていったんです。同じアウトドアでも全然違う世界がある…違う楽しみ方がある。そして、こんなにコールマンを愛してくださる方々がいる…って、衝撃を受けると同時に、強烈な興味がわいてきたんですね。コールマンを愛する人と人のつながりとかもね。それで(アルバイトから)社員になろうと思ったんですよ」

田中ケンさんのキャンプ場「アウトサイドベース」にてプライベートキャンプの一コマ。<br />
プライベートなのに生バンドが入るという贅沢キャンプを満喫した
田中ケンさんのキャンプ場「アウトサイドベース」にてプライベートキャンプの一コマ。
プライベートなのに生バンドが入るという贅沢キャンプを満喫した

御殿場で店長としてのスキルを積んだ小松さんは、次に岡山県倉敷市の新店を立ち上げ、店長に就任。再び御殿場に戻り、昨年昭島店のオープンを果たした。今、心掛けているのは、スタッフとのコミュニケーション。それがチームワークの良し悪しにつながるのだと信じている。

「低いレベルで和気あいあいやるのは簡単だと思うんですよ。でも、高いレベルで仕事をこなした上で、意思の疎通を果たしたいという想いがあります。私自身アルバイト出身ですので、スタッフの立場になって考えることにしているんです。まず、その店舗でやろうとしていることや業務をきちんと理解してもらうまで説明します。僕はこう考えているんですよ…こんなふうにお店を回していこうと思っています…っていうことを、口頭だけではなく、書面化して伝えるんです。一か月間または週をひとつの流れとして、時系列でのルーティンワークは言われなくてもできるようにしていこう!と。そういった大きな流れの理解をしてもらった上で、次にはスポット的な理解を深めてもらいます」

とはいえ、人気店での忙しい日々。それは簡単なことではない。

「ここは人数が多いし、シフトの問題もあるので、通常の業務内ではコミュニケーションの機会がなかなか得られないんです。もちろん店頭でも言葉は交わすんですよ、でも、じっくりと腰を据えて話すのとは違うじゃないですか。ひとりひとりで理解度は違いますし、きちんと伝えたつもりでも相手は理解していないことも多い…、スタッフも日々の業務の中で改善したいことや疑問がいろいろあると思うんです。そのためのミーティングを最低でも月に一度開いています」

小松店長がおすすめするのは、昭島店限定のブラックカラーシリーズ!イージーロール2ステージテーブル/110とコンパクトフォールディングチェア(画像)に、スリムキャプテンチェアというラインナップで、生産数各500個につき売切れ必至とか
小松店長がおすすめするのは、昭島店限定のブラックカラーシリーズ!イージーロール2ステージテーブル/110とコンパクトフォールディングチェア(画像)に、スリムキャプテンチェアというラインナップで、生産数各500個につき売切れ必至とか

こうしてオープンから1年を迎えた昭島店だが、彼にはまだまだ夢があるという。

「もっともっとお客様に来ていただくための新たな施策ですね。それはイベントなのか、商品なのか、サービスなのか…。意外に思われるかもしれませんが、店舗主体のキャンプイベントも展示会もやったことがないんですよ。そういう部分を切り開いていくのも、この店の役割だなって感じていますし、昭島店を繁盛させていくだけではなく、他店舗や新規開店時にもプラスになると思うんです。その一環として、梅園さん(第24回)のインタビューにもあったように、女性向けのコーナーやサービスを考えたいですね。このエリアは若いご家族も多いので、ご主人がお仕事に行っている間に奥様がお子さんとお越しになれるような店作りにも挑戦したいです」

販売のプロフェッショナルとして彼はコールマンを支えてきた。その想いは常にユーザーに向けられている。

「コールマンはこれからもお客様寄りのブランドであってほしいですね。ユーザーにとって友達のような存在でありたいと思います。そして、私としてはお客様に心から御礼が言いたいです。ホント、お客様に恵まれているんですよ。“何かイベントがあるなら何でもサポートするよ!”なんて言ってくださる方が結構いますしね。いろいろ助けていただいています」

そう言った彼の目は心なしか潤んでいるように見えた。これからもこのお店をお客様と一緒に作っていきたいんです…そんな言葉で締めくくった小松さん。2年後、3年後、昭島店はどんな姿を見せてくれるのだろうか。

明るく動線に優れた店内。解放感あふれる空間に豊富な商品が並ぶ
明るく動線に優れた店内。解放感あふれる空間に豊富な商品が並ぶ

コールマン「昭島アウトドアヴィレッジ店」情報

所在地:東京都昭島市田中町610-4

TEL: 042-500-6177

アクセス:JR青梅線昭島駅 北口下車徒歩3分

営業時間:平日:11:00-20:00/土日・祭日:10:00-20:00(定休日:水曜日)

詳しい情報はこちら:コールマン昭島アウトドアヴィレッジ店

取材と文
取材と文

三浦修

みうらしゅう

コールマンアドバイザー。日本大学農獣医学部卒。つり人社に入社後、月刊 Basser編集長、月刊つり人編集長を経て、2008年に広告制作、出版編集、企画、スタイリングなどを手がける株式会社三浦事務所設立。自称「日本一ぐうたらなキャンプ愛好家」。

1960年生まれ。千葉県市川市在住

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