竹島哲也

マーケティング本部 シニア・プロダクトマネージャー

竹島哲也
竹島哲也(たけしま・てつや)コールマンジャパン・プロダクトマネージャー。テント、タープ担当。

やってきたのは竹島哲也さん。屋外のイベント等でその姿に見覚えがある物静かな男性だ。今年の代々木公園でのイベントにも、照れくさそうに、でも嬉しそうにユーザーと接する彼がいた。

昭和45年5月21日生まれという竹島さんは、テントやタープを担当するプロダクトマネージャーで、コールマンにおけるモノ創りの本丸のひとり。総合スポーツ量販店勤務を経てコールマンジャパンに入社し、営業を経て現職に至る。

モノ作りのスペシャリスト

「キャンプとの出会いっていうのは大学1年。留年しちゃって暇になったんですけど、お金もないし、海外にはあまり興味がなかったんで国内を車で旅しようと。キャンプならお金も安く上がるじゃないか…って感じでしたね。小樽まで行って北海道を2週間くらい回ったんですよ。テント、寝袋、ツーバーナー、ランタン、コッヘルなんて揃えました。414のツーバーナーと、285だったかなアンレデッドのランタンと。買った翌日にはフェリーに乗ってましたからね。みんな箱のまま積んで(笑)」。

話は竹島さんとキャンプ、いやコールマンとのごくありふれた出会いから始まった。キャンプ以外に好きなことは?という問いにも静かに言葉を続ける。

「基本的にキャンプから始まっちゃったんで。あとはバーベキューとか。冬はスキーで、カヌーを少々。マウンテンバイクもやっていましたね」。

社会人として選んだ道も当然のようにアウトドアシーンだった。

商品開発に伸びるふた通りの道

実はこの日まで、私は、商品開発=新製品開発と思い込んでいた。開発という作業は、未発表商品のマーケットへの投入を意味すると固く信じていたのである。しかし…。

「開発ってふたつのパターンがあるんですよね。ひとつは今あるものをもっとよくするマイナーチェンジっていうスタイル。商品のメンテナンスとでも言いましょうか。それは商品が世の中にリリースされてからの評判とか売れ行きとか自分自身の評価とかをひっくるめて、このタイミングでリニューアルしよう、って進めていくんですけどね。もうひとつはまったく新しい商品。それまでにはなかったもの、ないから欲しいもの。

いずれにしてもまずは、ある商品群のラインナップを並べてみるんですね。で、ここに新しいものを作ってみようとか、ここをリニューアルしようとか考えていくわけです。企画、開発のいちばん最初の段階ですね」。

言われてみればそのとおり。呆気にとられるこちらが不勉強なだけである。しかし、竹島さんがマイナーチェンジという言葉を最初に持ち出し、新規開発についての説明をその後に…としたことが印象的だった。偶然かもしれないが、そこにはすでに世に送った商品であっても絶え間なく向上させたいというメーカーとしての良心、開発者としての強い責任感のようなものが漂っているような気がしたのである。ユーザーとの強い絆をそこに感じると言ったら感傷に過ぎるだろうか。

 

「ユーザーの意向や意見は私自身がいろいろな現場で聞いたり、見たりしたことが頭の中に残っていますからね」。

彼が続けた言葉が、代々木のイベント会場で来場者と楽しそうに話をする姿に重なる。そこには、ユーザーの中に飛び込んでその要望や想いをダイレクトにつかもうとする情熱的な開発者の顔が垣間見えた。

コンセプトを形に・・・デザインと機能の融合

開発の初期段階である商品コンセプトの策定を終えたプロダクトマネージャーを待っているのはどんな作業だろうか。

「素材の選定などに入っていく場合もありますが、デザインを先に進めることも多いんですね。“コンセプトはこんな感じだから、まずデザインを起こしてしまおう”と…」。

現代の商品開発でデザインという要素が重要であることは言うまでもない。いや、デザインなくして現代の商品開発はないと言っても過言ではないだろう。アウトドア商品という機能優先、性能ありきと思えるマーケットにおいて、「まず、デザインを起こしてみようか…」という彼の姿勢に、現代に生きるプロダクトマネージャーとしての感性を見ることができる。機能とデザインの融合は、かのバウハウス以来の決まり文句ではあるが、アウトドアにおいてそれを追求するのは簡単なことではない。そこに真正面からぶつかっていくあたりが実に骨太である。…そんな感想を漏らすと、そうですかねぇ、と竹島さんは照れくさそうに笑った。

写真はコールマン主催の「マスターキャンプ」でのひとこま。イベントはユーザーの要望や感想と直に接するチャンス。竹島さんも可能な限り出かけるという
写真はコールマン主催の「マスターキャンプ」でのひとこま。イベントはユーザーの要望や感想と直に接するチャンス。竹島さんも可能な限り出かけるという

"品質"を創るのは、小さな努力の積み重ね

コンセプトを立ち上げるまでは個人的な感性に多くを委ねるという竹島さんだが、デザインやサンプル製作という次のプロセスでは、彼のディレクションが一転する。“人の力を活かす”方向にシフトしていくのである。

「デザインに関しては、どちらかと言えばこちらが考えたことを形にさせるというより、イメージを伝えて、デザインを作り上げてもらっているという感じでしょうか。私が温めて育てたイメージをデザイナーが具体化するという感じかもしれませんね。彼らがあげてくる何パターンかから選んだり、修正してもらったりというのを繰り返して、精度を上げていくんです」。

強烈な個性と情熱で温めたコンセプトは、ここで他のスタッフのサポートを得て霧の中から姿を現し始める。

「ここからサンプルに入っていくわけですけどね。でも、プロダクトマネージャー個人の強い思い入れが、逆にハマっちゃうこともあるんですよね。つまり、絶対こんなのがあったらいい!って思っても、それがマーケットに受け入れられるかどうかは、正直、出してみないと分からない部分が多いんです。ですから、最近ではこの段階で市場調査を掛けることが多くなってきました。それは僕の仕事ではなく、社内のマーケティングのリサーチ部門を通じてやるわけですけどね。大掛かりな場合にはサンプルを何パターンか用意してアンケートをやったりもします」。

決して自分の感性や信念に溺れることはない、冷静で堅実なプロデューサーの顔がここでも垣間見える。この段階にきて彼が仕事の進め方を変えるのにはさらに深い理由もあった。

「完成した商品の品質が高い、低いってなかなか判断ができないんですよね。機能、性能だけではないわけですから。同じ素材で同じ部材を使ったとしても、腕のいい工場と腕の悪い工場では出来上がってきたものがまるで違うわけです。雰囲気がまったく違っちゃうわけです。ここが問題。たとえば、アルミポールを使ってテフロンコーティングした生地を合わせればマスターシリーズになるのか…っていえばそうではない。縫製への気遣いから、縫い糸の選び方、パターンのとり方、そういった細かいことの積み上げなんですよ。よい素材、いいデザイン、設計をこなした上で、さらに小さな小さなことを突き詰めていくわけです。インナーテントのコーナー部分をどう処理しようか、ストームガードの形をどうしようか、ループの縫いつけはどうしたら機能を高められるんだろうか、そういうことの積み重ね。だからといって、そこには一定の法則とか方程式、決まりとかないんですよ。マスターシリーズだからこうだとか、グリーン&ベージュのほうならこうだとか、結果として調べていったら一定の共通項はあるんじゃないかなって思いますけど、それは結果論。ひとつひとつの商品を開発するときに求められるものや必要なことを一生懸命考えて採用していくだけなんです。そのためには、優れた腕を持った工場や人々といかにコミュニケーションをとって理解し合い、長く仕事を続けていくか…そういう関係を維持するためにはどうしたらいいのか…それも僕の仕事だと思っているんです」。

170T15950J トンネルコネクトスクリーンタープ<br />
タープ+タープ、タープ+テントなど様々な設営バリエーションが可能なトンネルコネクトスクリーンタープも彼のアイディアから生まれた
170T15950J トンネルコネクトスクリーンタープ
タープ+タープ、タープ+テントなど様々な設営バリエーションが可能なトンネルコネクトスクリーンタープも彼のアイディアから生まれた

「コールマンはみんなのブランド」という想い

彼らプロダクトマネージャーの仕事を表現するなら、優れたアウトドア用品を産み出すための誠実で地道な作業とそれを支える情熱…そんな言葉になるのだろうか。いや、それだけで言い尽くせない何かがまだ潜んでいるような、まだ引き出せない何かがあるような、もどかしい想いが残っていた。

「開発の過程でずっと頭から離れないことってありますか」。

直球勝負である。竹島さんは、間をおいて静かに答えた。

「...コールマンらしさですよね」。

引っかかっていたものがすーっと消えたような気がした。そして、このさりげない言葉に、彼の自信と誇りがみえた。

「テントでいえば、やっぱり大きくて広いのがコールマンだろうと」。

 

そのひと言が妙にうれしくて、つられるように笑ってしまう。林間学校の屈んで入るようなオレンジ色の三角テントでキャンプデビューをした私にとっても、「コールマン」は、豊かで自由なキャンプライフの象徴だったからである。

「矛盾するんですけど、開発の都合だけでいえば、強くて丈夫なテントを作ろうと思ったら、ちっちゃければ楽なんです。大きいのに強くて丈夫なテントっていうのは難しい。ただ、コールマンのファミリーテントっていえばそれを克服しなきゃいけない。お客さんは中で立って着替えたいだろうな…って思うわけですよ。それを犠牲にしちゃコールマンじゃない。でも、大きくて広くてかつ強度を出そうとすれば重くなったりするわけです。風も強く受けちゃいますしね。でも快適さは絶対に譲れない。ゆったり…っていうのを失ったらコールマンじゃないと僕は思うんです」。

そして、コールマンはみんなのもの、と彼は続けた。

「すべてはバランスだと思います。快適さと強度や重さのバランス、品質と価格のバランス…それをいかにとるか。たとえばね、こだわってすごくいい物を創っても、20万円だったらなかなか使ってもらえないじゃないですか。僕たちには、コールマンはみんなのブランドなんだという想いがある。たくさんの人に使ってもらって、多くの人に愛されてほしい。だから品質や機能と、値段のバランスは考えますね」。

作り出すのはギア。生み出すのはスタイル。

「実際のモノ創りの現場では、“使いやすいこと、分かりやすいこと”ですかね。ちゃんと組み立てられたり、使えるか…ってことです。たとえばテントでは、155cmの人が背伸びしても届かないところにはフックをつけないとかね。そうでないとイスか何か持ってこい!って話になっちゃうわけです。155cmでも手が届く範囲ですべての作業ができるように設計しよう…と。これはうちのお客さんのメインである30~40歳の、女性の平均身長から割り出したんですけどね。そういう細かい作業をまめにやってるんですよ」。

彼が貫こうとしている現場主義とは、言い換えればユーザー至上主義。使いやすさ、居心地、求めやすさ、所有する喜び…そんなキャンプ用品に求められるすべての要素を、使う者の立場で徹底的に掘り下げていく愚直な作業の繰り返しなのである。

最後に、プロダクティブマネージャーとしての夢を問いかけてみる。う~ん、そうだなぁ…と、竹島さんが天を仰いだ。あまりにも多すぎるのだろうか。それともすでに叶えてしまったのだろうか。

「雨を楽しんでもらえるようなキャンプ用品でしょうかね。みんな雨だとやめちゃうんですよね。晴れでなきゃキャンプに行かないっていう方が結構多くて。コテージやバンガローの人気が高いのもそこだと思うんです。雨だと行けない…となってしまうから、キャンプが温泉旅行に負けちゃうんです (笑)。だから、雨を快適に過ごしてもらう商品なのか、苦と思わずに雨中のキャンプって楽しいなって思えるような商品なのかは分かりませんが、作ってみたいですね。ま、モノのほうだけじゃなくて、雨のキャンプっていうスタイル自体を産み出していけるかどうかというのもありますけどね」。

雨のキャンプという新しいひとつのスタイルを創り出していきたい…彼はそう締めくくった。コールマンを創る人々。それは彼の言葉を借りるまでもなく、コールマンというキャンプのスタイル、世界を創る人々なのである。

テントやタープの開発ではデッサンやイメージイラストを大切にすると言い、彼自身もデッサンのスキルを上げる努力を怠らないと語った
テントやタープの開発ではデッサンやイメージイラストを大切にすると言い、彼自身もデッサンのスキルを上げる努力を怠らないと語った
テントの強度はポールと生地と縫製ラインの三位一体から生まれるのだとか。縫い目自体が機能という説明に目から鱗でした…
テントの強度はポールと生地と縫製ラインの三位一体から生まれるのだとか。縫い目自体が機能という説明に目から鱗でした…
取材と文
取材と文

三浦修

みうらしゅう

コールマンアドバイザー。日本大学農獣医学部卒。つり人社に入社後、月刊 Basser編集長、月刊つり人編集長を経て、2008年に広告制作、出版編集、企画、スタイリングなどを手がける株式会社三浦事務所設立。自称「日本一ぐうたらなキャンプ愛好家」。

1960年生まれ。千葉県市川市在住