篠谷加奈

アジアパシフィックリージョン セールスグループ マネージャー

篠谷加奈
笑顔を絶やさない篠谷さん。そのまっすぐな人柄が多くのファンを惹きつける

とにかく笑顔を絶やさない人だ。インタビューの約2時間…彼女の表情が硬くなることはなく、少々答えにくいであろういじわるな問いにも自然な笑みで応じ続けた。

「楽しい物を売ったり、扱ったりするのにこちらが無表情じゃお客様も楽しくないじゃないですか…。ですからなるべく笑顔は絶やしたくないんです」

言うのは簡単だが、なかなかできることではない。篠谷さんの高いプロ意識の一端を見た想いがした。

スポーツ万能の少女がチーム競技から学んだこと

長野県中野市出身。外国人観光客に人気の、野生ザルが入浴する露天風呂で有名な信州中野駅の近くで生まれ、高校卒業まで過ごした。

「まさに雪国で…ウチの周りは畑しかなくて、小学校まで2㎞くらい歩くんですね。その間には林とか山とかあって、あっちこっちに寄って遊んでいくので、普通なら30分もあれば帰れるのに、まぁその何倍か掛かってました。フキノトウを採って帰れば、おばあちゃんがフキ味噌にしてくれましたし、川だったらジャブジャブ入って岩の下にいる魚を捕まえたり…。雪が降れば、雪かきのブルドーザーの跡がすごくツルツル滑るので、そこでスケートみたいに遊んでたんです。とにかくいたずらばかりしてましたね。畑の用水路に雪をいっぱい落として、そのあたり一帯に水をあふれさせちゃったりとか…」

自然が大好きで活動的な少女は、まもなくスポーツの魅力に目覚める。スキー、陸上、水泳…恵まれた身体能力で何をやっても高レベルでこなすことができた。

「冬のスキーをはじめ、年中スポーツばかり。陸上で長距離、マラソンもやっていました。小学校で駅伝チームがあったんですが入賞して、中学校では地区選抜に選ばれました。小さな頃いちばん好きだったのは水泳で、市の自由形ではいつも1位でした。練習はしなかったんですけどね(笑)。スイミングスクールもあったけど行かなかったし…」

中学入学と共に篠谷さんの興味は球技…それもチーム競技に移っていく。

「バスケット一筋になりました。当時、NBAが流行っていてマイケル・ジョーダンが人気だったんですよ。チームプレイは面白かったですね。私、負けず嫌いなんですよ。(チームの誰かが)できることを自分ができないと悔しいというか…やれるまで頑張る、競い合うというのが新鮮でした。チームとしてできなかったことを、みんなが力を合わせて成し遂げるというのも味わったことのない感覚でした」

このチーム競技の経験が、後に店舗責任者としての活躍の素地を作ることになる。

「中学三年でキャプテンを任されたんですが、そうなると年下の面倒を見ることを学ぶわけです。キャプテン業は楽しかったですね。お世話したり…が好きなんですよ。やり過ぎておせっかいになっちゃうこともあるんですけど(笑)。高校でも3年間バスケットです。すべてが部活中心で、クラスの友達より、バスケの仲間と一緒にいるほうが長かったし、楽しかった。部活のために学校に行ってたようなものです。お盆以外は休みなしで1年中部活でした(笑)」

高校を卒業し、就職のために上京。とはいえ、時代は就職氷河期で、社会人生活は弁当店のアルバイトがスタートだったが、1年後スポーツ関連商品のショップへ…。彼女の大好きなバスケットボール、野球、アイスホッケー、フットボール…いわゆるアメリカ4大スポーツを扱う店だった。

「バスケット以外のスポーツに親しめたことは大きかったですね。ちょうどその頃、日本代表がワールドカップ出場を決めたんですけど、その盛り上がりはすごかったです。グッズの売り上げはもちろん、毎日毎日、日本代表のユニフォームはありますか?と問い合わせが殺到しまして。同じ時期に長野オリンピックもあって、そういう世の中の盛り上がりに身を置けたのは大きかったと思います」

やがて、正社員として働ける道を求めて、バッグやアパレル関連を扱うコールマンライフスタイルへ入社。現在につながるキャリアをスタートさせる。

「販売店さんに出向いていって陳列したり、販売のお手伝いをしたり…という仕事に就きました。それまでコールマンというブランドの大きさを感じたことはなかったんですが、故郷の友達に“今度コールマンに入るんだよ”と話したらみんな知ってるんですよ(笑)。どこに行っても認知されてるっていうのがすごいと思いました。両親も“〇〇で売ってた。〇〇にも置いてあった”と教えてくれて。育った家の近くのホームセンターにも、スーパーにもあったんです。実は私が接客していた時にも、ある学校の指定というかお薦めのバッグがコールマンだったことがあって、ビックリしました」

御殿場アウトレットで学んだ接客の基本

コールマンライフスタイルで3年の経験を積んだ彼女は、御殿場のアウトレットにオープンする直営店スタッフに抜擢される。石角直樹さん(第9回掲載)が手掛けた初の大型店舗だった。そこでは小松要一さん(第25回掲載)も苦労を共にした。

「御殿場のアウトレットに直営店を出すことになったとき、興味はないか?と聞かれたんです。小松さんの回にも書いてありましたが、彼も私もランタンの点け方からテントの立て方まですべてをここで石角さんに教えてもらったんですよ。でも、不安でいっぱいでしたね。コールマンというブランドの大きさを知っていましたから…。最初は一から十まで石角さんに頼っていました。いろんなことを自分で実践して見せてくれるんですよ。“教えてもらうのではなく、(見て)盗め”と。“セールストークも商品の説明法もそれができる人を見て、真似をすることから始めろ”と。

そして何より、人と接すること…を教わった気がします。石角さんは人とのつながりをとても大切にするんです。いろんな場に引っ張り出してもらい、いろんな方を紹介してもらって、場数を踏ませてくれました。小さい頃からあまり前に出て自分の気持ちをしゃべるほうではなかったんですが、コミュニケーションのとりかたとか、接し方をそこで覚えたんです。たとえば、御殿場のアウトレットって巨大で、誰も知り合いがいませんでした。でも石角が率先して他の店の人と飲みに行ったりして、つながりを作り、そこに加えてくれました。コールマンアウトドアクラブの方々もその頃紹介してもらったんですよ」

ここでも彼女はバスケットボールで知ったチームプレイの面白さを味わうことになる。

「今もそうなんですけど、周りの人にすごく助けられ、支えられています。それは、仕事の作業だけではなく、落ち込んだ時にさりげなく声をかけてもらったり、気分転換に誘ってもらったりとか…そういうことも含めてですけどね。自分ひとりでは不可能なことも、みんなで協力すれば達成できる…ということを何回か経験してしまうと、誰かにも味わってもらえたら…と思うようになるんです」

COCミーティングでの一コマ。直営店勤務時代のお客様と出会うことも…。フィールドでの再会はとてもうれしいとか
COCミーティングでの一コマ。直営店勤務時代のお客様と出会うことも…。フィールドでの再会はとてもうれしいとか

御殿場の巨大アウトレットでの経験は、篠谷さんにさまざまな試練や驚きをもたらした。

「御殿場は、ほとんどのお客様が新規なんですね、いや、コールマン自体を知らないと言ったほうがいいかもしれません。当初、ご来店のうちファンの方は一割いなかったんじゃないですかね。コールマンって読まないお客さんもたくさんいて、“コレマン”とかね(笑)。靴のコールハンと間違う方もいますし。そういうお客様にキャンプについてお伝えして、リピーターになっていただいて、私を名前で呼んでくださるようになる…その醍醐味がたまらないんです。アウトドアをだんだん好きになってくれて、お友達と楽しそうに話しているのを見ると、よかったなぁ…と心から思います。

御殿場で苦労したのはお客様との接し方。それまでの経験を元にやっていたら、話し方もそうなんですが…どうしても上から目線になってしまっていた時期がありました。本当の意味でお客様の立場で接していなかったと思います。クレームもいただいたり…。でも、そんなとき、石角が突き放すんですよ。意識的にそうしてくれたんだと思うんですが、ヒントはくれるものの、自分で責任をもって最後まで取り組め…と。接客の仕方もひとつじゃない。いちばんいい提案をするにはどうしたらよいか考えろ…と。そういう経験を重ねて、お客様が何を言いたいのか…何を求めているのかをくみとって話を進めていくことの大切さを知りました。結局、すべてお客様から教わったんです。COC(コールマンアウトドアクラブ)の方から聞く体験談なんてヒントがいっぱいですよ」

COCミーティングでは、ミニコールマンショップを担当。毎回大行列ができるほどの盛況だ
COCミーティングでは、ミニコールマンショップを担当。毎回大行列ができるほどの盛況だ

スタッフが楽しく働ける店舗運営の模索

その後、篠谷さんは店長に昇格。そして、軽井沢への出店を店長として仕切ることになった。

「30坪ほどの小ぶりなお店ですから、何を置くか商品を絞らなければならないし、見せ方も工夫しなければなりません。テントだって少ししか広げることができません。ご存じの通り、四季の変化がはっきりしているので、売れる商品も客層も全然違うんですよ」

まったく異なる店舗運営を通して販売管理のスキルを高めていった篠谷さんは、その後、再び御殿場、そして倉敷の店長を務め2年半前、現職に就いた。

「現在は本社で、直営店の10店舗の統括をしています。販売する商品、売り上げ、売場の管理、人材やシステムにも関わります。デスクで数字を見る時間が長いのですが、できるだけお店も回りたいと思っています。やりがいはありますよ。これまではひとつの店舗で仕事をしていたわけですが、今は他部署との関わりを持ちながら展開していくので、私の考えに共感してくれる人と出会ったり、協力し合ったり…勉強にもなります。ここでは、いろいろな方が、いろいろな部署で、いろいろな考え方で仕事をしているわけじゃないですか。それを知ることができたのは大きかったですね」

でも、お客様と直接触れ合っていた店舗での日々が懐かしくなったり恋しくなったりしませんか?といじわるな質問をぶつけてみると…。

「イベントも関わっているので、ファミリーセールとかアウトドアリゾートパークでの物販などでお客様と触れ合う機会があるんです。それでガス抜きができています(笑)。COCのイベントにも顔を出させてもらってますしね。そこで以前のお客様から“お店に帰ってきてよ!”って言われることもありますけど(笑)。今の課題といえば、仕事に追われ過ぎてるかなぁ…もう少し余裕があればもっといろんな視点で物を見られるような気がしてるんですけどね」

軽井沢店々長に着任した際、仲のよい軽井沢のキャンプ場のスタッフ達と雪山トレッキングに行った際のワンシーン
軽井沢店々長に着任した際、仲のよい軽井沢のキャンプ場のスタッフ達と雪山トレッキングに行った際のワンシーン

夢はなんですか?と尋ねると、長年、販売の現場で汗を流してきた彼女らしい答えが返ってきた。

「お店で働いているスタッフが“楽しい”と思って働ける環境を作ってあげたい。辛いことでもなんでも話し合えるような雰囲気を作りたいんです。お店で起きている問題って、本社に上げられないような些細なことも多いんですが、現場できちんと解決しておかないと、積み重なっていって、後々大きな影響になることもあるので…。

それと、お店主体で、野外でお客様と過ごす機会を増やしたいですね。今は、まだお店で見ていただき、説明して、買っていただくことに留まっていて、現場で一緒に楽しんでいただくことがなかなかできていないんです。マーケティング主体(のイベント)はあるんですけど、お店側からは…。それができれば、お客様との距離をもっともっと縮められると思うんですよ。そういう要望も多いですしね」

さて、そろそろ恒例の質問を…。“この先、コールマンというブランドはどうあってほしいですか”と尋ねてみた。

「やっぱり長い歴史…それは守ってほしいですね。今、たくさんのアウトドアブランドがありますが、こんなに長いのはないし、強味だと思うんです。たとえば店頭で、新しいタイプのランタンを目立たせたい…とするじゃないですか。でも、これまでのいろいろなランタンの歩み、歴史があるから、この最新モデルがある…みたいなことを表現できたらいいなぁ…と思うし、忘れたくないと思うんです」

最後にコールマンファンへ何かひと言…と向けると、かなり長い間考え込んで、絞り出すように答えた。

「やっぱり……コールマンの商品で楽しい時間を過ごしてください…ですかね」

そう答えると、あの爽やかな笑みをたたえながら部屋を後にした。それはシンプルで耳慣れた言葉だったが、長年店頭でユーザーに深く接してきた彼女が口にすると、なんとも深く味わいのあるメッセージとして心に響くのだった。

篠谷さんのお気に入りは「ファイアープレイスフォールディングチェア」。とにかく座り心地がよいのと、焚き火にももってこいの高さがその理由。お客様にもおすすめしているそうです!
篠谷さんのお気に入りは「ファイアープレイスフォールディングチェア」。とにかく座り心地がよいのと、焚き火にももってこいの高さがその理由。お客様にもおすすめしているそうです!
取材と文
取材と文

三浦修

みうらしゅう

コールマンアドバイザー。日本大学農獣医学部卒。つり人社に入社後、月刊 Basser編集長、月刊つり人編集長を経て、2008年に広告制作、出版編集、企画、スタイリングなどを手がける株式会社三浦事務所設立。自称「日本一ぐうたらなキャンプ愛好家」。

1960年生まれ。千葉県市川市在住

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