鴨川蘭子

財務本部 経理課主任

鴨川蘭子
経理は営業の活動を支える裏方のような存在でありたいと語る鴨川さん。しかしその表情にはよき女房役としての自信が漲っていた

バンドの柱はベースやドラムだという話をよく耳にする。彼らが正確なリズムを刻み、グルーブを生み出してこそ、それに乗って花形であるリードギターやバンドの顔、ボーカルが変幻自在に奏でることができる。

ビートルズのポール・マッカートニーのようにその両方を兼ねてしまう例がないわけではないが、多くの場合、華やかなステージの上でどちらかといえば渋い職人気質。地味な存在だ。しかし、バンドが活きるも死ぬも彼ら次第…そんな屋台骨、大黒柱である。

会社組織にあって、経理部門はそんな存在なのかもしれない。…そう想ったのは、今回のインタビューを終えた帰途だった。

凄腕の経理職人

お会いしたのは鴨川蘭子さん。差し出された名刺には「財務本部経理課主任」とあった。まさに会社の金庫番である。社歴も長く、社内でも一目置かれる存在だとか…。が、実に人懐っこくて明るい方で、とにかくよく笑う。そして屈託ない。女性に年齢の話が禁句だが、その快活さとてきぱきとした物言いもあって、実年齢よりもはるかに若く見えた。

鴨川さんの業務は何億円という中のたった1円が合わなくても許されない厳格な作業の積み重ねだ。机につけばその表情も一転するのだろうが、その笑顔に引きこまれ、インタビューはあっという間にヒートアップしていった。

鴨川さんはコールマンに入社して15年を数える。

「以前は、繊維関係の会社で経理をやっていたんですね。でも、1回リセットしてみようと退社しまして。短期で働ける仕事がないかなと捜していたらコールマンの求人があったんです」。

彼女はそのスキルを活かして契約期間を務め上げ、コールマンとの関係はここで一旦途切れることになるのだが…。

「契約期間が満了したので"失礼します"ってコールマンから離れたんですよ。ところがしばらくしたら" 正式に社員として戻って来ないか?"って電話が掛かってきて、呼び戻されたんですね」。カラカラと明るい声で笑う。

当時、コールマンジャパンは、アウトドアブームと販売拠点の増大で一気に成長していた。社内の経理体制もそれにあわせて大きな変化を求められていたのである。

「お客様の数がどんどん増えていたんですね。それまでは、商品は幾つかのスポーツ用品専門の問屋さんにまとめて納めていたのですが、スポーツ量販店やホームセンターなど大口の販売店が急に増加して、売掛金の回収など経理的なサポートをこちらでひとつひとつきめ細やかに対応する必要が生じてきました。経理の体制もそれに合わせて大きく変わっていったわけです」。

まさに時代が彼女を求めていたのである。

「まぁ、ぶらっと入ってきて、ぶらっと辞めて、またぶらっと戻ってきて…、気がつけば15年が経っちゃいました」。

そう言うと、また明るい声で笑った。

苦手なキャンプが一転・・・

経理という、正確で迅速な作業の積み重ねを求められる仕事でありながら、鴨川さんの性格は熱しやすく冷めやすいラテン系のようで…。

「何事も飽きっぽいんですよ(笑)。興味が湧くとすぐに飛びついちゃうんですけど、長続きしないですね。学生の頃も、吹奏楽部にいたんですけど、ピアノがいいなぁと思って何年か。そのうちチェロが気になって頭を突っ込んで…。次はコントラバス (笑)。旅やショッピングも大好きなんですが、今興味があるのは香り。調香ですね」。

そんな鴨川さんだが、本格的なキャンプとの出会いはコールマンの入社まで待たなければならなかった。

「とりあえず、キャンプとの接点は学校の林間学校以外まったくありませんでした。是か非かと言えば非でしたね」。

また明るく笑う。

「なんでこんなことするんだろうって思いました。お風呂に入れないのもイヤだったし、布団もなくって、地面が凸凹していて寝づらいし。通常の家の生活ができないのが超イヤでした…」。

しかし入社によって、まったく別の世界があることを知る。

「入社するまで、コールマンってブランドをまったく知らなかったんですよ。…というか、誰でも知ってるアウトドアブランドでさえ一切知りませんでした。友だちとの川原バーベキューくらいはやってたんですけど、アウトドアの世界とは無縁だったんです。キャンプのイメージも悪いまま(笑)。でも、コールマンのキャンプに行ってみたら、テントは広いし、コットだからぐっすり眠れるし。料理だってカレーや焼きそばだけではなくって、おいしいものをいろいろ作れる!これなら楽しい!って思いました」。

彼女自身もコールマンとの出会いでキャンプの楽しみを知ったのである。

変幻自在の鴨川マジック

前出のように鴨川さんの仕事は会社の金庫番。私は、売った代金を請求し回収に至る流れで、伝票を起こし精算を進める…というイメージを抱いていた。

「経理といってもいろいろあるんですけどね。私の仕事は売掛金の管理です。つまり、商品を買っていただいたお客様からその代金をいただく過程を把握する仕事です」。

ところが、その先に話が進むと15年前に鴨川さんが入社を請われた理由がだんだん明確になってくる。

「販売店によって精算システムが異なっていることが多いんですね。ひとつひとつの取引先、納品先によって、発注体制、受注体制、物流体制が違うことがほとんどです。先方から"この物流業者を使ってこのシステムを使って"…と要請がくれば、その求めに応じなければなりません。さらに、先方のシステムが突然変更されることもありますしね。そんなときも、できる限り速やかに対応し、精算業務に支障が生じないようにしなければならないんです」。

数字やシステムという言葉が人一倍嫌いな私には拷問のような話だが、彼女はまさにそのプロフェッショナル。経理業務におけるきめ細やかな対応、サポートのスペシャリストだったのだ。

気に入っているんですよ…と鴨川さんが持ち出したのは、起毛レジャーシート。生活のワンシーンを楽しむ彼女の素顔が垣間見えた
気に入っているんですよ…と鴨川さんが持ち出したのは、起毛レジャーシート。生活のワンシーンを楽しむ彼女の素顔が垣間見えた

彼女は”戦う”経理主任

「私の仕事は、経理という大きな括りの中にありますが、意識の上では営業の裏方的な存在だと思っているんですよ。営業は商品を売るために全力を尽くし、飛び回っているわけです。そういった業務には、その段階その段階での取引残高など正しい数字が必要となるんですが、そんなことまで細々気にかけていたら仕事にならないですよね。私たちが常にきちんと把握してそれを伝えてあげるとか…そういったサポートがあれば(営業も)安心して飛び回っていけると思います」。

その表情には15年に渡って、コールマンジャパンの成長を支えてきた自信と誇りが漲っていた。

「営業担当が全国各地のいろいろなお店を訪ね、お付き合いをお願いし、棚に商品を並べていただいて…その積み重ねで、コールマンジャパンは少しずつ成長してきたと思うんですね。だとすれば、これからも私たちはそれをフォローしなければならないし、営業担当が心置きなく戦えるようにするのが(私の)仕事だと心得ています。営業活動の輪の中に自分もいて、それを支えているという自負でしょうかね…」。

まさによき女房役ですね、と突っこむと「恐妻いや、ただの怖い経理のおばちゃんかもしれないですぅ」と、また笑った。しかし、その笑顔にも自信が漲っている。

そこで、ちょっといじわるに、数字を把握している立場として最近何か感じることはありますか?と、つかみどころのない質問をぶつけてみた。

「そうですねぇ…。ここ何年かでいえばeビジネスが伸びてるのは実感しますね。そこにお客様のニーズが生まれていて、これまでのように店頭だけではなく、インターネットが新たな流通の場になっていることをひしひしと感じます。ま、私は実際に店頭で手にとって確かめてから買いたいほうなんですけどね(笑)」。

実は私も鴨川さんと同じで、店頭で商品を手に取ってみないと気が収まらない性質だ。しかし、その一方でインターネットの便利さも身にしみてはいる。私の場合、実際に見たことも触ったこともない商品の購入ボタンを押すかどうかは、そのブランドへの信頼に尽きる。ただひとつ「あそこのなら心配ないだろう…」である。

「コールマンのインターネットビジネスが急伸しているのは、ブランドへの信頼があるからじゃないんですか?」。そう問いかけると、彼女はとても嬉しそうに顔をほころばせた。

これまで登場した方々と同じように、鴨川さんも店頭のコールマン商品がとても気になるという。

「すごく客観的、シビアに見ちゃいますよ。売り場での配置とかね。思ったような展示になっていないと、ムっとしたりして(笑)なんだよ、この配置!なんて腹を立てたりします。逆に、きちっと提案型の飾り付けで展示されてると嬉しくなります。お客様がどんな表情でウチの商品を見ているかも気になるんで、そーっと近づいて横目でチラッチラッと見ちゃいます(笑)。他社製品のカラーやパッケージも気になりますね。店頭で目を引くかどうか…そんなことをチェックするんです」。

そこには数字の管理だけに留まらない、営業と共に"戦う"経理担当の姿が見え隠れする。コールマンのキャンピングギアの特徴についてはこう語る。

「そうですね。他に比べて造りがしっかりしてると思います。価格的には少し高めかもしれませんが、店頭とかで他社のものと並んでいるのを見ると、細部にまでしっかり造り込んであって、安全面も含めてお客様に自信を持ってお勧めできると実感するんです。キャンプ道具って、安かろう悪かろうじゃまずいと思うんですよね。だから、長く使っていただいて、いろんな思い出を作っていただけたら嬉しいです」。

もっと気軽に楽しめる環境を・・・

鴨川さんは、キャンプという遊びを取り巻く社会の変化にも実に冷静な視線を向けていた。

「私たちの世代って車がなければ始まりませんが(笑)、今の若い人たちって車を持たないのが珍しくないですよね。そんな人にもキャンプの楽しさを知ってほしいと思うんですね。だから車がなくても可能なキャンプも考えていかなければならないのかなと…。キャンプサービスも年々充実してきているとは思うんですけど、キャンプ場にもっとウチの商品を置いてもらって、気軽に触れていただける機会、買おうかどうしようか迷ってる人がまず使ってみることができる状況を提供するのも必要だと感じています」。

それはブランドとしての敷居を下げることではなく、キャンプという遊びの敷居を下げることなのだと力説した。やがて話はコールマンの一員としての誇りに…。

「去年、初めてCOCミーティングに参加したんですね。それはすごい悪天候で(笑)。開会式も土砂降り。そんな中でも会員の皆さんがたくさん来てくれて…。雨も横なぐりでマイクが使えなくなって、なんだかショボい開会式になっちゃったんです。でも、文句ひとつ言わず、"またコールマンの方々に会えてうれしいです"なんて声を掛けていただいて、"ああ、こういうお客様がいらっしゃるからウチの会社が存在できるんだな"って実感しました。また、飲み屋とかで知り合ったばかりの方に"俺もコールマン持ってるよ"とか"昔から使ってるんだよ"なんて言われると誇らしく思います」。

鴨川さんはどんなキャンプが好きですか…そう訪ねた時、素顔の彼女が垣間見えた。

「お料理を凝りたいですねぇ。アウトだからこその…。大人のキャンプってやっぱりお酒が欠かせないですよね。私、お酒が好きなんです。はっきり言って飲みます(笑)。だから、お酒がおいしくなる食べ物を作りたいなぁ。ダッチオーブンで豪快かつ繊細な料理。いい素材を選んで、調理して…そんなキャンプって楽しいですよね」。

最後に、これからの目標を尋ねてみた。それまでどんな質問にも動じず、手際よく答えていた鴨川さんが少し照れくさそうな表情を見せた。

「コールマンジャパンの組織も大きくなってきました。仕事が多様化し、様々な部署がそれぞれの仕事に取り組んでいます。その部署と部署の間の潤滑油のような役割、存在になれたらいいな…と思いますね。それがコールマンというブランドの発展や充実にもつながっていくと信じています」。

そう言葉をつなぐと、ふうっと息を吐いた。

気がつけば2時間近くが経っていた。彼女の業務がもっとも忙しくなる時間帯だ。長時間のインタビューにも関わらず、疲れた素振りも見せない。

帰り際、それにしてもお若いですね、と声をかけると、ひと際明るく笑った。

「じゃぁ、趣味は若づくりって書いておいてください」。

"戦う"経理主任は、そんな粋なひと言を残してオフィスに戻っていった。

イベントなどでユーザーの皆さんと触れ合うひとときは、コールマンの一員である誇りを感じさせてくれると鴨川さんは言う
イベントなどでユーザーの皆さんと触れ合うひとときは、コールマンの一員である誇りを感じさせてくれると鴨川さんは言う
取材と文
取材と文

三浦修

みうらしゅう

コールマンアドバイザー。日本大学農獣医学部卒。つり人社に入社後、月刊 Basser編集長、月刊つり人編集長を経て、2008年に広告制作、出版編集、企画、スタイリングなどを手がける株式会社三浦事務所設立。自称「日本一ぐうたらなキャンプ愛好家」。

1960年生まれ。千葉県市川市在住

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