子どもは自然の中で育つ

人類20万年の記憶が教えてくれること
東京大学名誉教授・教育/保育評論家
汐見稔幸先生

早期教育よりも本当に必要なものって?

早期教育よりも本当に必要なものって?

現代の子どもは、小さい時から自然の中で遊ぶことがほとんどできなくなっています。かつて日常の一部だったスズメの声や台所の音は、今やスマホの着信音やテレビ、自動車の音に置き換わりました。 さらに、子どもたちの最大の遊び場だった“家の前の道”は舗装され、車道となり、自由に遊べる場所は急速に失われています。子どもが自然の中で過ごす時間が減るということは、人間が本来持っている“自然性”を発揮する機会が奪われているということなんです。

人類20万年の歴史と“自然性”の共鳴

人類20万年の歴史と“自然性”の共鳴

人間が特定の空間で『いい気分だな』と感じる感覚は、人類20万年の歴史の中で蓄えられ、遺伝子レベルで受け継がれてきた感覚ともいえるでしょう。人間は長い歴史のほとんどを、自然の中で暮らしてきました。 そのため、森の匂い、風の音、土の感触といった自然の要素は、私たちの身体に深く刻み込まれています。昔から人間がやってきたこと、つまり自然の中で群れて遊ぶことをそのまま行うことで、“人間の中にある自然性と、外の自然性が共鳴する”。これが子どもの成長にとって非常に大切なんです。

微生物との共生と、泥んこ遊びの科学

微生物との共生と、泥んこ遊びの科学

人間の体は無数の微生物と共生しています。幼少期の泥んこ遊びなどを通じて腸内細菌が増えることで、健康や免疫バランスが保たれるのです。腸内にはおよそ100兆個の細菌が存在し、これらは免疫機能の発達に欠かせません。 さらに、森の木々がウイルスから身を守るために放出する“フィトンチッド”は、人間が浴びることで心身をリフレッシュする効果があるといいます。人間は本来、自然の中で暮らすことで健康を維持するようにできているんです。

偶然に満ちた自然が育てる“非認知能力”

偶然に満ちた自然が育てる“非認知能力”

自然の中には、足が滑る、予想外の景色が広がる、虫が飛んでくるなど、偶然の出来事が溢れています。こうした“偶然”に上手に対応する力こそが、現代社会で求められている“非認知能力”の基礎になります。一方で都市化とは、空間の役割やルールを決め、偶然を排除していく作業です。 便利さと引き換えに、子どもが自分で意味を見つける機会が奪われていく。AI社会による利便性の追求と脱自然化が同時に進めば、人類の存在意義そのものが問われかねません。

今日からできる自然遊びのコツ

今日からできる自然遊びのコツ

― 親が“指示しない”“先に楽しむ”

親の心構えとして大事なのは、少し距離を置いて見守ること。 子どもを自由にさせることです。『これやってごらん』と指示を出すと、子どもは“やらなきゃいけないこと”が増えてしまう。普段は先生の言うことをよく聞く子どもたちほど、キャンプ場に着いた途端、誰も自発的に動けなくなってしまうことがあります。何をしていいか分からずじっとしている時は、親が先に楽しそうに遊んで見せるのが一番です。

自然体験は“特別なこと”ではない

自然体験は“特別なこと”ではない

自然体験とは、人間が本来持っている力を取り戻す営みです。遠くのキャンプ場に行かなくても、身近な場所で十分に自然と触れ合うことができます。自然の中で遊ぶことは、子どもの成長にとって不可欠な営み。 そしてそれは、親にとっても“人間らしさ”を取り戻す時間になるのです。

汐見稔幸(しおみ・としゆき)

汐見稔幸(しおみ・としゆき)

東京大学名誉教授/教育・保育評論家

専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。 21世紀型の保育、学校を模索中。How toだけでなく、なぜそうすべきかを原点から考えようと努力し、それを保育者たちと共有する研修を追求している。 保育が深い意味でおもしろい!と思えるようになりたいと願っている。 NHK-Eテレ「すくすく子育て」「アイラブみー」など出演多数。

近年の主な著書
『子どもをあらわすということ』(2025年・北大路書房、編著)
『子どもの生きる力をのばす5つの体験』(2025年・辰巳書房)
『学校とは何か―子どもの学びにとって一番大切なこと』(2024年・河出書房新社)
『新時代の保育のキーワード 乳幼児の学びを未来につなぐ12講』(2024年・小学館)

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